学習指導要領でモデル化とシミュレーションはどうなっているの?
こんにちは。今回は「モデル化とシミュレーション」について、学習指導要領でどのように記述されていたかを整理しておきたいと思います。情報科が学習指導要領上の教科となった時から、学習指導要領は3回目の改訂になります。3回の改訂がありましたが、3回ともモデル化とシミュレーションは学習内容になっています。大きくは変化していませんが、少しずつ変化がありますので整理しておきましょう。なお、今回の投稿では学習指導要領の本文と解説編の該当箇所を引用しているので、ページの分量はかなり多くなっています。引用した箇所は必要に応じて参照できるように、BLOCKQUOTEで区別しています。
平成12年(2000年)3月 情報科新設「情報A」「情報B」「情報C」
この時の学習指導要領改訂で情報科が新設されました。身のまわりにある情報機器から出発して、情報化が生活に及ぼす影響を考えさせ、さらに情報社会へと考えを進めさせる「情報A」、情報技術の観点から情報社会を考えさせる「情報B」、社会で利用されている情報システムの観点から情報社会を考えさせる「情報C」の3科目が新設されました。これらの科目で「モデル化とシミュレーション」がどのように扱われていたかを確認しましょう。
「情報A」「情報C」…記述なし
「情報B」…(3)「問題のモデル化とコンピュータを活用した解決」で取り扱う
(3) 問題のモデル化とコンピュータを活用した解決
ア モデル化とシミュレーション
身のまわりの現象や社会現象などを通して,モデル化とシミュレーションの考え方や方法を理解させ,実際の問題解決に活用できるようにする。(内容の取扱い)
内容の(3)については,ソフトウェアやプログラミング言語を用い,実習を中心に扱うようにする。その際,ソフトウェアの利用技術やプログラミング言語の習得が目的とならないようにする。ア及びイについては,基本的な考え方は必ず扱うが,実習については,生徒の実態等に応じ,いずれかを選択して扱うことができる。アについては,内容の(2)のイ,ウ及び(4)のアと関連付けた題材や,時間経過や偶然性に伴って変化する現象などのうち,簡単にモデル化できる題材を扱い,数理的,技術的な内容に深入りしないようにする。
となっていました。ここで、『内容の取扱い』で、『(2)のイ、ウや(4)のア』と別の項目とのつながりが書かれているので、そこも参照しておきましょう。
(2) コンピュータの仕組みと働き
イ コンピュータにおける情報の処理
コンピュータの仕組み,コンピュータ内部での基本的な処理の仕組み及び簡単なアルゴリズムを理解させる。
ウ 情報の表し方と処理手順の工夫の必要性
コンピュータを活用して情報処理を行うためには,情報の表し方と処理手順の工夫が必要であることを理解させる。(4) 情報社会を支える情報技術
ア 情報通信と計測・制御の技術
情報通信と計測・制御の仕組み及び社会におけるそれらの技術の活用について理解させる。
項目名だけを見てもよくわかりませんが、学習指導要領解説にはこれらとのつながりについても記述があります。学習指導要領解説で、どのように解説されているかを確認しておきましょう。
コンピュータを活用して身近な問題を解決するには,その問題をモデル化してコンピュータ上で扱えるようにすることが有効である。モデル化とは,問題を構成している要因とその関係を明確にし,さらに,解決のためには,どの要因を操作して,どの要因がどのような基準を満たすようにすればよいのかを明らかにすることである。
また,問題解決の方法としては,情報処理の実務で行われているシステム分析の考え方や手順を機械的に適用することは避け,生徒の実態に応じて適用方法を工夫し,生徒が実習しやすいように配慮する。
なお,ア,イについての基本的な考え方は必ず授業で扱うものとするが,実習は,生徒の実態等に応じ,ア,イのいずれかを選択して扱うことができる。両方の実習を行ってもよいが,「情報B」全体の指導計画の中で内容の(3)に配当時間が偏らないように配慮する。ア モデル化とシミュレーション
ここでは,コンピュータを用いて予測問題などを効果的に解決する方法として,モデル化とシミュレーションの考え方や方法を扱う。モデル化とシミュレーションそのものは,必ずしもコンピュータを利用することを前提としてはいない。したがって,コンピュータの活用という観点からは,どのような場面でどのように行えばコンピュータを用いたシミュレーションが有効なのかや,コンピュータを用いたシミュレーションの特性や活用上の留意点の理解などについて学ぶ必要がある。ただし,既に確立されている定型的なモデルを知識として理解させることだけで終わらないように留意する。
特に,モデル化の仕方が異なるとシミュレーションの結果が異なることについて認識させることは必要である。同じ課題に異なるモデル化を行い,生徒の分担によるシミュレーションを行わさせ,その結果を比較させるなどの活動が考えられる。
また,モデル化の過程やシミュレーション結果の適切さを判断する場合に,実験や調査によるデータ収集を行い,それを活用して検証することの有効性などに触れることも考えられる。
「情報B」では,身近な生活に役立つ問題解決能力を育成するのがねらいなので,ここで扱う題材としては,簡単な身のまわりの現象や社会現象などのうち,例えば,飲食店の前にできる行列のように偶然性によって状態が時系列的に変化していくような現象がまず想定される。
また,すでに実習した内容(2)のイの並べ替えや探索など,または,内容(2)のウで扱った題材などに関連させて,使用するデータが偶然性によって変化したときの処理効率なの変化の様子を調べてみることも考えられる。
さらに,内容(4)のアで扱う制御や通信の学習と関連付けて,身近な制御・通信システムの動作をモデル化し,コンピュータでシミュレーションしてみることも考えられる。その際,制御誤差やノイズの影響についてシミュレーションすることにより,内容(4)のアの学習を深め,内容(4)のイなどで発展させることもできると考えられる。
いずれにしても,ここではモデル化の方法を学ぶことが目的であり,生徒が各教科等で学習済みの知識を生かして簡単にモデル化できる程度の題材を取り上げることが望ましく,数理的,技術的な内容に深入りした題材は扱わない。具体的には,他の内容と関係するもの以外として,サイコロやじゃんけんを用いた簡単なゲームにモデル化できる程度の題材や,交通量,人口動態などの必要なデータが簡単に収集できる程度の題材を扱うことが考えられる。
このときの学習指導要領の特徴は「深入りしない」ことが挙げられます。これは「モデル化とシミュレーション」に限ったことではなく、他の内容についても同じ傾向にあります。教科が新設されたため、どの程度まで学習したらよいかということについて共通の認識ができていなく、得意な教員がマニアックに深入りしてしまうことがないように歯止めをかけたのではないかと思っています。しかし、実際には教員対象の意識調査において、この分野は苦手意識を持つ人が多い分野になっているようです。
実習については、「情報B」・「情報C」では総授業時数の3分の1以上配当することが示されていました。しかし、(3)「問題のモデル化とコンピュータを活用した解決」は、モデル化とシミュレーションだけではなく、イの項目として情報の蓄積・管理とデータベースの活用も含まれています。両方の実習を行うと、全体のバランスからみて重くなり過ぎることが心配されたのではないかと思います。
「ア モデル化とシミュレーション」について書かれた多くの文は、文末が「考えられる」や「想定される」となっていて、例示的に示されています。それに対して完全に断定形になっている文があります。これらの文はこの内容として指導することとして示されていると考えられます。それぞれの文を分割しながら見ておきましょう。
はじめの文はこのようになっています。「ここでは、【コンピュータを用いて】【予測問題などを効果的に解決する方法】として、モデル化とシミュレーションの考え方や方法を扱う。」というように、道具としてコンピュータを用い、問題解決が目的であると読み取れます。
次の2文では、「モデル化とシミュレーションそのものは、必ずしもコンピュータを利用することを前提としてはいない。したがって,【コンピュータの活用という観点からは】、【どのような場面でどのように行えばコンピュータを用いたシミュレーションが有効なのか】や、【コンピュータを用いたシミュレーションの特性や活用上の留意点の理解】などについて学ぶ必要がある。」となっています。モデル化とシミュレーションはコンピュータの利用は前提としていないが、【コンピュータの活用という観点】を踏まえて学ぶことが示されていました。
平成21年(2009年)3月 「社会と情報」「情報の科学」
この時の改訂で「社会と情報」と「情報の科学」の2科目に再編されました。科目の性質として、「社会と情報」では「情報の特徴と情報化が社会に及ぼす影響を理解させ、情報機器や情報通信ネットワークなどを適切に活用して情報を収集、処理、表現するとともに効果的にコミュニケーションを行う能力を養い、情報社会に積極的に参画する態度を育てること」、「情報の科学」では「情報社会を支える情報技術の役割や影響を理解させるとともに、情報と情報技術を問題の発見と解決に効果的に活用するための科学的な考え方を習得させ、情報社会の発展に主体的に寄与する能力と態度を育てること」をねらいとしています。これらの科目でモデル化とシミュレーションがどのように扱われているか見てみましょう。
「社会と情報」…記述なし
「情報の科学」…(2)「問題解決とコンピュータの活用」で取り扱う
「情報の科学」の科目のねらいとなっている「問題解決」という内容にはア~ウの3項目があり、そのうちのひとつとして扱う内容になっています。
(2) 問題解決とコンピュータの活用
ウ モデル化とシミュレーション
モデル化とシミュレーションの考え方や方法を理解させ,実際の問題解決に活用できるようにする。(内容の取扱い)
2 内容の(2)のアについては,(中略)。イ及びウについては ,学校や生徒の実態に応じて,適切なアプリケーションソフトウェアやプログラム言語を選択すること。
さらに、具体的なことが書かれている学習指導要領解説について確認しましょう。
ここでは,問題解決の基本的な考え方,問題の解決と処理手順の自動化,モデル化とシミュレーションに関する基礎的な知識と技能を習得させることをねらいとしている。
指導に当たっては,内容の(3)との関連に配慮する。ウ モデル化とシミュレーション
問題を効果的に解決するための方法として,モデル化やシミュレーションに必要な基礎的な知識と技能を習得させる。その際,問題を抽象化してモデルを作るというモデル化の手法により,問題の分析がしやすくなり,シミュレーションなどの手法が適用できるようになったり,問題解決が行いやすくなったりすることを理解させる。そのためには,コンピュータを用いずに紙に図示したり,カードの集まりを用いたりしてモデルを表現し,それを手で操作(シミュレーション)させることにより,モデル化の意味と有用性を理解させることが考えられる。また,問題をコンピュータで解く場合には,問題を抽象化して作成したモデルに対してアルゴリズムやシミュレーションを適用することで解決方法を求めることができること,そのモデル化の過程において省略した部分の影響などで解が不正確になる場合もあることなどを理解させ,最終的にはコンピュータによる問題解決とモデル化やシミュレーションとの関係を理解させるとともに,問題解決においてモデル化とシミュレーションの考え方が活用できるようにさせる。そのため,モデル化とシミュレーションに基づいてコンピュータで問題を解決する具体例を体験させるようにする。
モデル化については,例えば鉄道の路線図は,線路が実際にどのように敷設されているかなどについては省略して,駅と駅とを直接つなぐなどして路線を簡略化して示すことで,行き先までの乗り換えを含む経路を見いだしやすくしていること,家具の配置図では,個々の家具の高さや質感などは省略して床面のふさがり具合を見いだしやすくしているなどの例を挙げて,その利点を理解させる。その際,既に確立されている定型的なモデルを知識として理解させることだけで終わらないように留意する。
シミュレーションについては,コンピュータを用いたシミュレーションの特性や活用上の留意点について学ぶ。その際,問題解決のどのような場面でどのように活用すれば,コンピュータを用いたシミュレーションが有効かについても理解させる。
モデル化とシミュレーションについては,単にアプリケーションソフトウェアやプログラム言語を使ってモデル化とシミュレーションを行うことに主眼を置くのではなく,問題解決を適切に行うための有効な手段としてモデル化とシュミレーションを取り扱うことが大切である。
「情報B」との比較では、「深入りしない」という言葉がなくなりました。また、コンピュータの活用が前提だった「情報B」とは違い、モデル化の手法とシミュレーションの手法の2つの手法の有用性に重きが置かれています。「情報B」と同じように文ごとに確認しておきます。
「【問題を効果的に解決するための方法】として,【モデル化やシミュレーションに必要な基礎的な知識と技能を習得】させる。その際,【問題を抽象化してモデルを作るというモデル化の手法により】,【問題の分析がしやすく】なり,【シミュレーションなどの手法が適用できる】ようになったり,【問題解決が行いやすく】なったりすることを理解させる。」となっています。問題を解決するための方法であり、モデル化の手法により、問題分析ができ、シミュレーションが行え、問題解決が行いやすいことを理解させ、そのための知識と技能を習得させるということになります。
続いて、「【問題をコンピュータで解く場合】には,【問題を抽象化して作成したモデルに対してアルゴリズムやシミュレーションを適用することで解決方法を求めることができ】ること,その【モデル化の過程において省略した部分の影響などで解が不正確になる場合もある】ことなどを理解させ,最終的には【コンピュータによる問題解決とモデル化やシミュレーションとの関係】を理解させるとともに,【問題解決においてモデル化とシミュレーションの考え方が活用できる】ようにさせる。そのため,【モデル化とシミュレーションに基づいてコンピュータで問題を解決する具体例を体験】させるようにする。」とあります。最終的にはコンピュータによる問題解決とモデル化とシミュレーションの関係を理解させて活用できるようにすることとなっています。そのための体験も求められています。単に問題解決できるだけではなく、モデル化の方法次第では不正確になることの理解も含まれています。
次にシミュレーションについて見ていきましょう。「【コンピュータを用いたシミュレーションの特性や活用上の留意点】について学ぶ。その際,【問題解決のどのような場面でどのように活用すれば,コンピュータを用いたシミュレーションが有効か】についても理解させる。」となっています。まとめてしまうと、シミュレーションについて特性・留意点・活用場面・活用方法についての理解となっています。
ざっくりまとめてしまうと、『モデル化とシミュレーション手法の理解→コンピュータでの活用』といったところでしょうか。
平成30年(2018年)3月 「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」
これまでの「情報A」「情報B」「情報C」、「社会と情報」「情報の科学」では、いずれかの科目を履修することになっていて、必ずしも「モデル化とシミュレーション」を学習するとは限りませんでした。今回の学習指導要領改訂では「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」に再編されました。これにより、「情報Ⅰ」が共通必履修科目となり、その上に発展的な科目として「情報Ⅱ」が選択科目として履修できるようになりました。「モデル化とシミュレーション」については次のとおりです。
「情報Ⅰ」…(3)「コンピュータとプログラミング」の(ウ)に記述があります。
(3) コンピュータとプログラミング
コンピュータで情報が処理される仕組みに着目し,プログラミングやシミュレーションによって問題を発見・解決する活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 次のような知識及び技能を身に付けること。
(ア)(イ) 略
(ウ) 社会や自然などにおける事象をモデル化する方法,シミュレーションを通してモデルを評価し改善する方法について理解すること。
イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。
(ア)(イ) 略
(ウ) 目的に応じたモデル化やシミュレーションを適切に行うとともに,その結果を踏まえて問題の適切な解決方法を考えること。(内容の取扱い)
(4) 内容の(3)のアの(イ)及びイの(イ)については,(略)アの(ウ)及びイの(ウ)については,コンピュータを使う場合と使わない場合の双方を体験させるとともに,モデルの違いによって結果に違いが出ることについても触れるようにする。
さらに、学習指導要領解説を確認しておきます。
ここでは,問題解決にコンピュータや外部装置を活用する活動を通して情報の科学的な見方・考え方を働かせて,コンピュータの仕組みとコンピュータでの情報の内部表現,計算に関する限界などを理解し,アルゴリズムを表現しプログラミングによってコンピュータや情報通信ネットワークの機能を使う方法や技能を身に付けるようにし,モデル化やシミュレーションなどの目的に応じてコンピュータの能力を引き出す力を養う。
また,こうした活動を通して,問題解決にコンピュータを積極的に活用しようとする態度,結果を振り返って改善しようとする態度,生活の中で使われているプログラムを見いだして改善しようとすることなどを通じて情報社会に主体的に参画しようとする態度を養うことが考えられる。
ここでは,中学校技術・家庭科技術分野の内容「D 情報の技術」の学習を踏まえたプログラミングを扱う。また,コンピュータでの情報の内部表現や情報の抽象化,情報デザインについては,共通教科情報科の第2款の第1「情報Ⅰ」の2の(2)「コミュニケーションと情報デザイン」の内容と関連付けて扱う。
更に,モデル化とシミュレーションについては,高等学校数学科の第2款の第4「数学A」の2の(2)「場合の数と確率」との関連が深く,地域や学校の実態及び生徒の状況に応じて教育課程を工夫するなど,相互の内容の関連を図ることが大切である。ア(ウ) 社会や自然などにおける事象をモデル化する方法,シミュレーションを通してモデルを評価し改善する方法について理解することでは,モデル化とシミュレーションを身近な問題を発見し解決する手段として活用するために,実際の事象を図や数式などにモデル化して表現する方法,モデル化した事象をシミュレーションできるように表現し条件を変えるなどしてシミュレーションする方法,作成したモデルのシミュレーションを通じてモデルを改善する方法を理解するようにする。その際,モデルの違いによってシミュレーションの結果や精度が異なる場合があることを理解するようにする。
イ(ウ) 目的に応じたモデル化やシミュレーションを適切に行うとともに,その結果を踏まえて問題の適切な解決方法を考えることでは,モデル化とシミュレーションの考え方を様々な場面で活用するために,モデル化とシミュレーションを問題の発見や解決に役立てたり,その結果から問題の適切な解決方法を考えたり選択したりする力を養う。その際,学校や地域の実態及び生徒の状況に応じて,数学科と連携し,不規則な現象を含む確率的モデルを扱うことも考えられる。
例えば,現実の事象をモデル化してシミュレーションする活動を取り上げ,現実の事象を抽象化することでコンピュータが扱える形に表現するモデル化のメリットや抽象化に起因するモデル化の限界,シミュレーション結果から予測を行ったり最適な解決方法を検討したりすることなどを扱う。その際,学校や地域の実態及び生徒の状況に応じて,プログラミング,シミュレーション専用ソフトウェア,表計算ソフトウェアの利用などシミュレーションを行う方法について配慮する。また,数式を利用したモデル化とシミュレーションを取り上げ,金利計算,人口の増減,インフルエンザの流行,数学や物理などの事象を扱うことなどが考えられる。
(3)の全体にわたる学習活動の例としては,コンピュータや外部装置についての仕組みや特徴,モデル化とシミュレーションの考え方などを学んだ後に,生徒の希望する問題についての学習を深める中で,アルゴリズムやプログラミングなどについて自ら学び,問題の発見・解決に必要な資質・能力を獲得することなどが考えられる。
(中略)
例えば,モデル化とシミュレーションに関する学習活動としては,平面図等を利用した家具の配置等の単純なモデルによるシミュレーションやシミュレーションソフトウェアを利用した体験を通して,事象をどのようにモデル化しているのかを調べたり,生徒自らがモデル化を行ったり,モデル化の長所と短所を調べたりする学習活動などが考えられる。
また,数式等を利用しない単純なモデルを利用したシミュレーションなどの後に,コンピュータを活用した金利計算や通信に関する料金プランのモデル化とシミュレーションを行ったり,シミュレーションの仕組みを考えたりする学習活動が考えられる。更に,関係する変数が少ない事象を数式で表す技能を身に付け,変数に代入する値を変えるなどしながらシミュレーションを繰り返し,適切な解決方法を発見したり選択したりする学習活動が考えられる。
学校や地域の実態及び生徒の状況に応じて乱数を用いたシミュレーションなどを題材とするとともに,インフルエンザが爆発的に増える理由,感染を抑えるための方法について考えるような題材を基にモデル化とシミュレーションを行う学習活動などが考えられる。また,必要に応じて天体シミュレーション,物理シミュレーションや流体シミュレーションなどの専用のシミュレーションソフトウェアの利用やプログラミングによるシミュレーションを行う学習活動も考えられる。
この学習指導要領に改訂されるにあたり、育成すべき資質・能力についての議論があり、3つの柱として「何を知っているか、何ができるか(個別の知識・技能)」、「知っていること・できることをどう使うか(思考力・判断力・表現力等)」、「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びに向かう力、人間性等)」に整理されました。学習指導要領改訂にあたり、育成すべき資質・能力を踏まえて編成されています。学習指導要領自体では、「知識・技能」と「思考力・判断力・表現力」それぞれについて示されています。また、「科学的な理解に裏打ちされた情報活用能力の育成」が情報科の柱になっています。
文章量がこれまでの学習指導要領解説編よりも圧倒的に多くなっていますので、モデル化とシミュレーションについて全体を通して簡単に整理しておきます。
学習活動…【問題解決にコンピュータなどを活用する活動】
知識・技能…【社会や自然などにおける事象をモデル化する方法、シミュレーションを通してモデルを評価し改善する方法】
具体的には【実際の事象を図や数式などにモデル化して表現する方法、モデル化した事象をシミュレーションできるように表現し条件を変えるなどしてシミュレーションする方法,作成したモデルのシミュレーションを通じてモデルを改善する方法についての理解】
思考力・判断力・表現力…【 目的に応じたモデル化やシミュレーションを適切に行い、その結果を踏まえて問題の適切な解決方法を考える】
学びに向かう力・人間性等…【問題解決にコンピュータを積極的に活用しようとする態度、結果を振り返って改善しようとする態度、生活の中で使われているプログラムを見いだして改善しようとすることなどを通じて情報社会に主体的に参画しようとする態度】
となります。コンピュータとの関わりについては【モデル化やシミュレーションなどの目的に応じてコンピュータの能力を引き出す力を養う】と書かれており、コンピュータを活用することが求められます。はじめからコンピュータを活用するだけではなく、【コンピュータを使う場合と使わない場合の双方を体験させる】というようにコンピュータを使わない場合について体験を通して理解することも求められています。このあたりは、現行の「情報の科学」に近いと考えられます。
また、今回の学習指導要領改訂ではカリキュラム・マネージメントの重要性も挙げられています。そのため、他教科との関連についても記述されていて、モデル化とシミュレーションについては「数学A」の「場合の数と確率」との関連を図ることが求められています。具体的には【数学科と連携し、不規則な現象を含む確率的モデルを扱う】とあり、【学校や地域の実態及び生徒の状況に応じて乱数を用いたシミュレーションなどを題材とするとともに、インフルエンザが爆発的に増える理由、感染を抑えるための方法について考えるような題材を基にモデル化とシミュレーションを行う学習活動などが考えられる】というように確率との関連付けて学習の例示が挙げられています。
参考文献
平成12年3月 学習指導要領解説 情報編
平成22年1月 学習指導要領解説 情報編
平成30年7月 学習指導要領解説 情報編
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