若者が学ぶ数学
こんにちは。これまで何回かに分けて高等学校教諭数学科の学習指導要領の変遷をたどってきました。今回は現行の学習指導要領とこの春に示された次期学習指導要領について確認していきます。
2009年(平成21年)公示
1996年4月生~2006年3月生が高校で学習した内容です。数学科と理科で先行実施が行われました。「脱ゆとり」ということが世の中では言われている学習指導要領になります。数学Ⅰ・数学Ⅱ・数学Ⅲ・数学A・数学B・数学活用の6科目で構成されています。
数学Ⅰ(3単位)
(1)数と式
ア 数と集合 (ア) 実数 (イ) 集合
イ 式 (ア) 式の展開と因数分解 (イ) 一次不等式
(2)図形と計量
ア 三角比 (ア) 鋭角の三角比 (イ) 鈍角の三角比 (ウ) 正弦定理・余弦定理
イ 図形の計量
[用語・記号]正弦,sin ,余弦,cos ,正接,tan
(3)二次関数
ア 二次関数とそのグラフ
イ 二次関数の値の変化 (ア) 二次関数の最大・最小 (イ) 二次方程式・二次不等式
(4)データの分析
ア データの散らばり
イ データの相関
〔課題学習〕
(1),(2),(3)及び(4)の内容又はそれらを相互に関連付けた内容を生活と関連付けたり発展させたりするなどして,生徒の関心や意欲を高める課題を設け,生徒の主体的な学習を促し,数学のよさを認識できるようにする。
数学Ⅱ(4単位)
(1)いろいろな式
ア 式と証明 (ア) 整式の乗法・除法,分数式の計算 (イ) 等式と不等式の証明
イ 高次方程式 (ア) 複素数と二次方程式 (イ) 因数定理と高次方程式
[用語・記号]虚数,i
(2)図形と方程式
ア 直線と円 (ア) 点と直線 (イ) 円の方程式
イ 軌跡と領域
(3)指数関数・対数関数
ア 指数関数 (ア) 指数の拡張 (イ) 指数関数とそのグラフ
イ 対数関数 (ア) 対数 (イ) 対数関数とそのグラフ
[用語・記号]累乗根,\(\log_{a} x\)
(4)三角関数
ア 角の拡張
イ 三角関数 (ア) 三角関数とそのグラフ (イ) 三角関数の基本的な性質
ウ 三角関数の加法定理
(5)微分・積分の考え
ア 微分の考え (ア) 微分係数と導関数 (イ) 導関数の応用
イ 積分の考え (ア) 不定積分と定積分 (イ) 面積
[用語・記号]極限値,lim
数学Ⅲ(5単位)
(1)平面上の曲線と複素数平面
ア 平面上の曲線 (ア) 直交座標による表示 (イ) 媒介変数による表示 (ウ) 極座標による表示
イ 複素数平面 (ア) 複素数の図表示 (イ) ド・モアブルの定理
[用語・記号] 焦点,準線
(2)極限
ア 数列とその極限 (ア) 数列の極限 (イ) 無限等比級数の和
イ 関数とその極限 (ア) 分数関数と無理関数 (イ) 合成関数と逆関数 (ウ) 関数値の極限
[用語・記号]∞
(3)微分法
ア 導関数 (ア) 関数の和・差・積・商の導関数 (イ) 合成関数の導関数 (ウ) 三角関数・指数関数・対数関数の導関数
イ 導関数の応用
[用語・記号]自然対数,e ,第二次導関数,変曲点
(4)積分法
ア 不定積分と定積分 (ア) 積分とその基本的な性質 (イ) 置換積分法・部分積分法 (ウ) いろいろな関数の積分
イ 積分の応用
数学A(2単位)
(1)場合の数と確率
ア 場合の数 (ア) 数え上げの原則 (イ) 順列・組合せ
イ 確率 (ア) 確率とその基本的な法則 (イ) 独立な試行と確率 (ウ) 条件付き確率
[用語・記号]\({}_n \mathrm{ P }_r\),\({}_n \mathrm{ C }_r\),階乗,\(n!\),排反
(2)整数の性質
ア 約数と倍数
イ ユークリッドの互除法
ウ 整数の性質の活用
(3)図形の性質
ア 平面図形 (ア) 三角形の性質 (イ) 円の性質 (ウ) 作図
イ 空間図形
〔課題学習〕
(1),(2)及び(3)の内容又はそれらを相互に関連付けた内容を生活と関連付けたり発展させたりするなどして,生徒の関心や意欲を高める課題を設け,生徒の主体的な学習を促し,数学のよさを認識できるようにする。
数学B(2単位)
(1)確率分布と統計的な推測
ア 確率分布 (ア) 確率変数と確率分布 (イ) 二項分布
イ 正規分布
ウ 統計的な推測 (ア) 母集団と標本 (イ) 統計的な推測の考え
(2)数列
ア 数列とその和 (ア) 等差数列と等比数列 (イ) いろいろな数列
イ 漸化式と数学的帰納法 (ア) 漸化式と数列 (イ) 数学的帰納法
[用語・記号]Σ
(3)ベクトル
ア 平面上のベクトル (ア) ベクトルとその演算 (イ) ベクトルの内積
イ 空間座標とベクトル
数学活用(2単位)
(1)数学と人間の活動
ア 数や図形と人間の活動
イ 遊びの中の数学
(2)社会生活における数理的な考察
ア 社会生活と数学
イ 数学的な表現の工夫
ウ データの分析
2018年(平成30年)公示
2006年4月生以降の高校生が学習する内容になります。投稿時の小学6年生以降が該当します。「主体的・対話的で深い学び」がキーワードになっています。数学Ⅰ・数学Ⅱ・数学Ⅲ・数学A・数学B・数学Cの6科目で構成されています。ここでの学習内容の示し方は、知識・技能と思考力・判断力・表現力についてそれぞれ示されています。過去との比較をできるよう、知識・技能を対象に掲載していきます。
数学Ⅰ(3単位)
(1) 数と式
(ア) 数を実数まで拡張する意義を理解し,簡単な無理数の四則計算をすること。
(イ) 集合と命題に関する基本的な概念を理解すること。
(ウ) 二次の乗法公式及び因数分解の公式の理解を深めること。
(エ) 不等式の解の意味や不等式の性質について理解し,一次不等式の解を求めること。
(2) 図形と計量
(ア) 鋭角の三角比の意味と相互関係について理解すること。
(イ) 三角比を鈍角まで拡張する意義を理解し,鋭角の三角比の値を用いて鈍角の三角比の値を求める方法を理解すること。
(ウ) 正弦定理や余弦定理について三角形の決定条件や三平方の定理と関連付けて理解し,三角形の辺の長さや角の大きさなどを求めること。
[用語・記号] 正弦,sin,余弦,cos,正接,tan
(3) 二次関数
(ア) 二次関数の値の変化やグラフの特徴について理解すること。
(イ) 二次関数の最大値や最小値を求めること。
(ウ) 二次方程式の解と二次関数のグラフとの関係について理解すること。また,二次不等式の解と二次関数のグラフとの関係について理解し,二次関数のグラフを用いて二次不等式の解を求めること。
(4) データの分析
(ア) 分散,標準偏差,散布図及び相関係数の意味やその用い方を理解すること。
(イ) コンピュータなどの情報機器を用いるなどして,データを表やグラフに整理したり,分散や標準偏差などの基本的な統計量を求めたりすること。
(ウ) 具体的な事象において仮説検定の考え方を理解すること。
[用語・記号] 外れ値
〔課題学習〕
(1)から(4)までの内容又はそれらを相互に関連付けた内容を生活と関連付けたり発展させたりするなどした課題を設け,生徒の主体的な学習を促し,数学のよさを認識させ,学習意欲を含めた数学的に考える資質・能力を高めるようにする。
数学Ⅱ(4単位)
(1) いろいろな式
(ア) 三次の乗法公式及び因数分解の公式を理解し,それらを用いて式の展開や因数分解をすること。
(イ) 多項式の除法や分数式の四則計算の方法について理解し,簡単な場合について計算をすること。
(ウ) 数を複素数まで拡張する意義を理解し,複素数の四則計算をすること。
(エ) 二次方程式の解の種類の判別及び解と係数の関係について理解すること。
(オ) 因数定理について理解し,簡単な高次方程式について因数定理などを用いてその解を求めること。
[用語・記号]二項定理,虚数,i
(2) 図形と方程式
(ア) 座標を用いて,平面上の線分を内分する点,外分する点の位置や二点間の距離を表すこと。
(イ) 座標平面上の直線や円を方程式で表すこと。
(ウ) 軌跡について理解し,簡単な場合について軌跡を求めること。
(エ) 簡単な場合について,不等式の表す領域を求めたり領域を不等式で表したりすること。
(3) 指数関数・対数関数
(ア) 指数を正の整数から有理数へ拡張する意義を理解し,指数法則を用いて数や式の計算をすること。
(イ) 指数関数の値の変化やグラフの特徴について理解すること。
(ウ) 対数の意味とその基本的な性質について理解し,簡単な対数の計算をすること。
(エ) 対数関数の値の変化やグラフの特徴について理解すること。
[用語・記号]累乗根,\(\log_{a} x\),常用対数
(4) 三角関数
(ア) 角の概念を一般角まで拡張する意義や弧度法による角度の表し方について理解すること。
(イ) 三角関数の値の変化やグラフの特徴について理解すること。
(ウ) 三角関数の相互関係などの基本的な性質を理解すること。
(エ) 三角関数の加法定理や2倍角の公式,三角関数の合成について理解すること。
(5) 微分・積分の考え
(ア) 微分係数や導関数の意味について理解し,関数の定数倍,和及び差の導関数を求めること。
(イ) 導関数を用いて関数の値の増減や極大・極小を調べ,グラフの概形をかく方法を理解すること。
(ウ) 不定積分及び定積分の意味について理解し,関数の定数倍,和及び差の不定積分や定積分の値を求めること。
[用語・記号]極限値,lim
〔課題学習〕
(1)から(5)までの内容又はそれらを相互に関連付けた内容を生活と関連付けたり発展させたりするなどした課題を設け,生徒の主体的な学習を促し,数学のよさを認識させ,学習意欲を含めた数学的に考える資質・能力を高めるようにする。
数学Ⅲ(3単位)
(1) 極限
(ア) 数列の極限について理解し,数列{rn}の極限などを基に簡単な数列の極限を求めること。
(イ) 無限級数の収束,発散について理解し,無限等比級数などの簡単な無限級数の和を求めること。
(ウ) 簡単な分数関数と無理関数の値の変化やグラフの特徴について理解すること。
(エ) 合成関数や逆関数の意味を理解し,簡単な場合についてそれらを求めること。
(オ) 関数の値の極限について理解すること。
[用語・記号]∞
(2) 微分法
(ア) 微分可能性,関数の積及び商の導関数について理解し,関数の和,差,積及び商の導関数を求めること。
(イ) 合成関数の導関数について理解し,それを求めること。
(ウ) 三角関数,指数関数及び対数関数の導関数について理解し,それらを求めること。
(エ) 導関数を用いて,いろいろな曲線の接線の方程式を求めたり,いろいろな関数の値の増減,極大・極小,グラフの凹凸などを調べグラフの概形をかいたりすること。
[用語・記号]自然対数,e,変曲点
(3) 積分法
(ア) 不定積分及び定積分の基本的な性質についての理解を深め,それらを用いて不定積分や定積分を求めること。
(イ) 置換積分法及び部分積分法について理解し,簡単な場合について,それらを用いて不定積分や定積分を求めること。
(ウ) 定積分を利用して,いろいろな曲線で囲まれた図形の面積や立体の体積及び曲線の長さなどを求めること。
〔課題学習〕
(1)から(3)までの内容又はそれらを相互に関連付けた内容を生活と関連付けたり発展させたりするなどした課題を設け,生徒の主体的な学習を促し,数学のよさを認識させ,学習意欲を含めた数学的に考える資質・能力を高めるようにする。
数学A(2単位)
(1) 図形の性質
(ア) 三角形に関する基本的な性質について理解すること。
(イ) 円に関する基本的な性質について理解すること。
(ウ) 空間図形に関する基本的な性質について理解すること。
(2) 場合の数と確率
(ア) 集合の要素の個数に関する基本的な関係や和の法則,積の法則などの数え上げの原則について理解すること。
(イ) 具体的な事象を基に順列及び組合せの意味を理解し,順列の総数や組合せの総数を求めること。
(ウ) 確率の意味や基本的な法則についての理解を深め,それらを用いて事象の確率や期待値を求めること。
(エ) 独立な試行の意味を理解し,独立な試行の確率を求めること。
(オ) 条件付き確率の意味を理解し,簡単な場合について条件付き確率を求めること。
[用語・記号] \({}_n \mathrm{ P }_r\),\({}_n \mathrm{ C }_r\),階乗,\(n!\),排反
(3) 数学と人間の活動
(ア) 数量や図形に関する概念などと人間の活動との関わりについて理解すること。
(イ) 数学史的な話題,数理的なゲームやパズルなどを通して,数学と文化との関わりについての理解を深めること。
数学B(2単位)
(1) 数列
(ア) 等差数列と等比数列について理解し,それらの一般項や和を求めること。
(イ) いろいろな数列の一般項や和を求める方法について理解すること。
(ウ) 漸化式について理解し,事象の変化を漸化式で表したり,簡単な漸化式で表された数列の一般項を求めたりすること。
(エ) 数学的帰納法について理解すること。
[用語・記号]∑
(2) 統計的な推測
(ア) 標本調査の考え方について理解を深めること。
(イ) 確率変数と確率分布について理解すること。
(ウ) 二項分布と正規分布の性質や特徴について理解すること。
(エ) 正規分布を用いた区間推定及び仮説検定の方法を理解すること。
[用語・記号]信頼区間,有意水準
(3) 数学と社会生活
(ア) 社会生活などにおける問題を,数学を活用して解決する意義について理解すること。
(イ) 日常の事象や社会の事象などを数学化し,数理的に問題を解決する方法を知ること。
数学C(2単位)
(1) ベクトル
(ア) 平面上のベクトルの意味,相等,和,差,実数倍,位置ベクトル,ベクトルの成分表示について理解すること。
(イ) ベクトルの内積及びその基本的な性質について理解すること。
(ウ) 座標及びベクトルの考えが平面から空間に拡張できることを理解すること。
(2) 平面上の曲線と複素数平面
(ア) 放物線,楕円,双曲線が二次式で表されること及びそれらの二次曲線の基本的な性質について理解すること。
(イ) 曲線の媒介変数表示について理解すること。
(ウ) 極座標の意味及び曲線が極方程式で表されることについて理解すること。
(エ) 複素数平面と複素数の極形式,複素数の実数倍,和,差,積及び商の図形的な意味を理解すること。
(オ) ド・モアブルの定理について理解すること。
[用語・記号]焦点,準線
(3) 数学的な表現の工夫
(ア) 日常の事象や社会の事象などを,図,表,統計グラフなどを用いて工夫して表現することの意義を理解すること。
(イ) 日常の事象や社会の事象などを,離散グラフや行列を用いて工夫して表現することの意義を理解すること。
まとめ
2009年(平成21年)公示の学習指導要領では、行列が高校数学から無くなったことが大きな変化になります。また、コンピュータという語が含まれる単元も無くなってしまいました。
一方、新たに加わった内容としては、数学Ⅰにデータの分析が入り、四分位数や箱ひげ図などを含む統計が必履修科目として学習することになりました。数学Aには整数の性質が入りました。また、数学Ⅰと数学Aで課題学習が導入されたことも新たな点になります。
2018年(平成30年)公示の学習指導要領では、数学Ⅲ5単位が3単位になり、数学C2単位ができたことが科目構成で変わっています。これまで、大学入試で数学Bとして「数列・ベクトル」と実質セットになっていたのですが、別々の科目になってしまいました。それにより、数学Bは「数列・統計的な推測・数学と社会生活」、数学Cは「ベクトル・平面上の曲線と複素数平面・数学的な表現の工夫」と再編されています。
内容については、統計での四分位数などの内容が中学校に移り、仮説検定など高度化しています。また、6科目いずれにも課題学習や新設された単元により、数学を身の回りの事象や社会的な事象と結びつける内容が含まれています。
ここからは完全に私の独自の考えになります。理論的な根拠になることは数学の学習として行い、多数のデータを扱ったり具体的な数値を扱ったりする場合にコンピュータを活用する学習は情報科で行うことが必要に思います。そのような教科間の連携が必要で、そのためのカリキュラムマネージメントが必要だろうと思っています。
古い時代まで遡って変遷をたどったので、古い時代のことまで触れたいと思います。関数型言語なんてことを考えたら、写像が無くなったのは残念です。多変量を同時に扱いたいので行列もあった方が良さそうに思います。ずっと残り続けているベクトルで、有向線分を幾何的に扱うだけでなく多変量を扱えば違った展開ができそうに思います。数列は一貫して同じ内容が続いているように見え、あまりコンピュータに寄ってこない印象を持っています。数列の一般項と繰り返し処理を結びつけたり、漸化式を再帰的定義の色を濃くしたり、何か繋げられそうですが特に大きく変化していません。
ここまで、高等学校数学科の学習指導要領の変遷をたどってきました。次回は、次期学習指導要領解説数学編に深入りして、情報科の学習の前提にしたり、情報科の教材にしたりできそうな内容を拾ってみたいと思います。それではまた。
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