教育のパラダイム転換
こんにちは。今回は情報科の内容ではありません。授業設計をするうえで押さえておく必要がある考え方について書きたいと思います。
はじめに
最近、アクティブラーニング(ではなく「主体的・対話的で深い学び」と表現されるようになっていますが)とか、ルーブリックとか、eポートフォリオとか、習得だけでなく活用・探究が重要とか、学校での授業そのものを大きく変えていこうという話がいろいろ出てきています。本当はその根本になる理論的な背景があるはずですが、ほとんど触れられていません。表面的に手法やツールだけが脚光を浴びているように思っています。
そのため、ちぐはぐなことになっている実践記録を読んだりすることがあります。具体的に書くことは控えますが、単なる知識を問うだけの問題なのに無理やりルーブリックを使って評価しようとしたりというようなものを読んだこともあります。そのような知識を問うことならば、テストで出題して確認すれば十分だと思います。
どのような考え方で何をしようとしているのかを測る物差しを持っていないと、ちぐはぐな設計になってしまいます。今回は、受け売りではありますが教育のパラダイム転換について書きたいと思います。
教育のパラダイム転換
2008年「eポートフォリオの理論と実際」という論文の中で整理された教育のパラダイム転換を紹介します。学習理論の変遷について表にまとめられているので、その表を示します。
行動主義 | 認知主義 | 構成主義 | 社会構成主義 | ||
主な理論家 | スキナー | ガニエ | ピアジェ | ヴィゴツキー レイブとウェンガー | |
学習 | 特徴 | 学校化された学習 | 真正な学習 | ||
知識観 | 知識は普遍的に真なもの | 知識は一人一人が自ら構成するもの | 知識は社会的な営みの中で構成するもの | ||
学習観 | 知識伝達 | 学習者の事前知識から事後知識への質的な変化 | 学習者の事前知識から事後知識への質的な変化(共同体の社会的な営みを通した内化) | ||
主体 | 教員中心 | 学習者中心 | |||
学習者の態度 | 受動的 | 主体的/自律的 | |||
学習課題 | 学校化された課題 | 真正な課題 | |||
教員の役割 | 知識の提供者 | 学習のファシリテーター | |||
情報システムへの適用 | CAI・ティーチングマシン | 知的CAI・知的チュータリングシステム・エキスパートシステム | LOGO・マインドストーム | CSCL・eラーニング | |
評価 | 特徴 | 学校化された評価 | 真正な評価 | ||
評価期間 | ある時点 | 継続的/ライフロング(生涯) | |||
評価形態 | テストの客観的な評価 | 学習者のパフォーマンス(学習成果物など)の主観的な評価 | |||
評価される対象 | テストの点数を重視 | 学習活動のプロセスを通した学習成果物や記録を重視 | |||
評価の在り方 | 学習と切り離された評価 | 学習に埋め込まれた評価 | |||
評価方法 | テスト | ポートフォリオ | |||
能力測定 | 学習プロセス同定と診断的評価 | 自己評価 | 相互評価・他者評価 |
行動主義・認知主義では絶対的な知識を伝達するための学習指導(学校化された学習)が求められ評価方法として客観的能力測定法であるテストを用いてその結果が重視されます。
しかし、徐々に構成主義・社会構成主義という考え方が広まってきました。知識とは、学習者の事前知識から事後知識への質的な変化であり、単に外部から与えられるものではなく、学習者一人一人が自ら構成するものであると捉えるようになりました。このような学習についての理論の変化が教育における知識観のパラダイム変化です。
構成主義における学習
構成主義では「真正性(authenticity)」が強調されます。現実的な課題(真正な課題)と現実的な文脈を持った学習内容(真正な文脈)のもと、現実に即した活動(真正な活動)によって学習者による主体的/自律的な学習をすることが真正な学習です。このような学習では、必要な知識を収集したり、その知識を統合したり、適切に判断し課題解決していくことになります。それらを評価するには、テストだけでは不可能であり、学習プロセスを通した学習成果物や学習記録などのエビデンスに基づいて、学習者のパフォーマンスを多面的に評価する真正な評価(authentic assessment)が求められます。さらに、社会構成主義では社会的な営みの中で再構成され続け、共同体における協働的な学び合いが重んじられるようになってきています。
今回のまとめ
学習観が行動主義・認知主義から構成主義・社会構成主義へとシフトしています。授業設計がどの学習観に基づいて設計されているか、その授業設計と評価方法がマッチしているかという比較をしないで、単にツールを使ってしまうとおかしなことになってしまいます。
私は高校の教員で理論家ではないので、ガチガチに構成主義・社会構成主義だけで授業を組み立てているわけではありません。しかし、生徒の資質・能力を伸ばすためにはどのような理論に基づいているかを意識しています。昨今話題にあがっている「言語活動」「アクティブラーニング」「反転授業」「eポートフォリオ」「ルーブリック」「総合的な探究の時間」「パフォーマンス評価」などなど、なぜ一気に授業を変えるようなワードが矢継ぎ早に出ているかを、上のパラダイム転換の表を見ながら考えていく必要があると思っています。
参考文献
「eポートフォリオの理論と実際」(教育システム情報学会誌25(2)、森本康彦、2008)
「教育工学選書Ⅱ 2 教育分野におけるeポートフォリオ」(ミネルヴァ書房、森本康彦・永田智子・小川賀代・山川修 編著、2017)
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