次期学習指導要領での情報科と数学科との関係

学習内容

こんにちは。これまで情報科の学習と関係する数学科の内容を書いてきました。前回までで、次期学習指導要領解説をひととおり確認してきました。個々の記事は、個別の内容になるので全体像が見えにくくなっています。そこで、今回は俯瞰的に整理していきたいと思います。

情報とコンピュータについて

コンピュータの話題が多くなると、「情報=コンピュータと思っていない?」と聞かれることがあります。情報は生命にとっての意味や価値をもたらすものと考えています。

意味や価値として情報を捉えたときに、コンピュータが果たしている役割は、情報を大量に蓄えることができ、情報を瞬時に他者に伝えることができ、情報を処理することにより新たな意味や価値を生み出すことにより、とても大きくなっています。おそらくコンピュータの存在がなく手作業での処理が続いていれば、情報科は教科になっていなかったのではないでしょうか。

もちろんコンピュータで扱うことができていない情報の存在を意識にとどめながら、コンピュータで情報をどのように扱うかを考えています。

コンピュータでの処理をするための裏付けとしての数学

ビットと2進法

現行の学習指導要領では、数学Aで「整数の性質」が含まれています。n進法が学習内容に含まれていました。次期学習指導要領でも数学Aに含まれることは変わりませんが、「数学と人間の活動」という項目に変わっています。そのため、「~を取り扱ったりすることも考えられる」という例示にとどまっています。

また、情報科で扱っていた「情報のデジタル化」についても、次期学習指導要領では中学校の技術科に移っていることに注意が必要です。

そのような理由があり、今回のシリーズでは詳しく書きませんでした。小数の表現では基数の変換の考え方が理解できていないと、誤差が生じる理由が理解できないということもあるので、別の機会に書きたいと思います。

さまざまな情報の表現

これまで、デジタル化の仕組みでは、数値・文字・音声・静止画・動画といった個別の情報を表現することが扱われていました。しかし、意外な気がしますが複数のデータをまとめて扱うことはされていませんでした。探索や整列でいつの間にか配列が使われるというものでした。

数学でのベクトルや行列を使うことにより、多数の数値をまとめて扱うことができるようになります。しかし、残念なことに、高校数学のベクトルは完全に図形を扱うためのものになってしまっており、行列については高校の共通教科としての数学科の対象外になってしまっています。(なお理数科の理数数学特論では、逆行列を用いた連立一次方程式の解法や一次変換を扱うようです。)ベクトルでは、座標以外にも複数の数値の集まりを表現する方法としての側面にも触れるとよいと考えています。次期学習指導要領では、行列については数学的な計算にはあまり触れていませんが、離散グラフを隣接行列として表現しています。これについては次のリンクで触れました。

規則性と数列

コンピュータで大量のデータを処理するために、個別の処理の仕方のプログラムを書いていたのでは不可能です。何らかの規則に従って、まとめて処理することが必要になります。

数学Bの「数列」は規則性に着目して学習内容が進んでいきます。等差数列×等比数列の形になっている数列の和を求める問題や群数列の考え方などは有用だと思います。今回のシリーズからは外してしまいましたが、これについても別の機会で書きたいと思います。

数列と関連して、「ハノイの塔」で漸化式と再帰呼び出しについて書きました。慣れるまでは難しい考え方になりますが、再帰呼び出しはプログラムを学習するうえでは必須の内容だと思います。詳しくは次のリンクにあります。

確率の考え方

世の中の出来事は必ずしも確定的なことばかりではありません。むしろ偶然に左右されることの方が多いのではないでしょうか。そのときに、どの程度起こりうるかという予測も「意味や価値」になります。朝は晴れていても夕方ににわか雨が降りそうな場合、洗濯をして外に干して外出しないでしょう。

偶然性を考える上では確率の考え方が基本になります。次期学習指導要領では、これまでとは違い4つの確率について書いています。特にコンピュータで処理する際には、「頻度確率」と「主観確率」が重要になると思います。詳しくは次のリンクにあります。

また、上のリンクにも書いていますが「期待値の考え方」も重要になります。単に「どの程度起きるか?」だけではなく「どの程度得られるか?どの程度損失するか?」も「意味や価値」を考える上では重要な概念です。

統計の考え方

今回のシリーズでは全く触れませんでしたが、情報科では情報Ⅰの「情報通信ネットワークとデータの活用」、情報Ⅱの「情報とデータサイエンス」、数学科では数学Ⅰの「データの分析」、数学Bの「統計的な推測」が深く関わっています。この内容だけでもシリーズ化できそうなので、今回は書きませんでしたが、いつか必ず書きます。

コンピュータの力を使って解く数学

コンピュータは、ものすごい速さでものすごい量を処理できる能力を持っています。(プログラムを書く必要はありますが・・・)その処理能力を使って、手で計算していただけでは見えていない問題を発見したり、手で計算していただけでは解決できない問題を解決したりすることができます。(プログラムを書く必要はありますが・・・)

数学科の学習指導要領解説から見つけた問題について書いた記事を整理しておきます。

モデル化とシミュレーションを用いる問題

数学科の学習指導要領解説にモデル化とシミュレーションの題材となる問題が含まれていたので、取り上げました。コンピュータを使うことにより、パラメータの数値を変えるなど複数の条件で比較できることも書いています。

プログラムを書くことで発見・解決できる問題

手作業ではたどり着きにくい問題を、プログラムで計算することにより扱ってみました。

情報科学の考え方を使うと解きやすい数学の問題

状態遷移図は、高校の情報科にも数学科にも含まれていません。オートマトンとして問題を捉え、受理状態への遷移を調べる問題についても、数学Aの「数学と人間の活動」で取り上げられていました。蛇足ですが、オートマトンを数学的に表現することは、高校の授業としては含めなくてよいと思います。

今後書こうと考えている内容

ひととおり次期学習指導要領解説数学編を読み通して、情報科での題材について書いてきました。9回に渡って書いたのですが、まだ抜けていることが多いので箇条書きとして整理しておきます。括弧内の科目名は学習指導要領解説でどの科目で書かれているかを示しています。

  • データの分析(数学Ⅰ)
  • 文化祭の模擬店での販売価格と売り上げの関係(数学Ⅰ)
  • 速度と制動距離(数学Ⅰ・数学B(物理基礎))
  • 区分求積法(数学Ⅱ)
  • 三角関数の和(数学Ⅱ)
  • シェルピンスキーのギャスケット(数学Ⅲ)
  • 金利計算とその極限(数学B・数学Ⅲ)
  • 条件付確率・主観確率・ベイズの定理(数学A)
  • くじと期待値(数学A)
  • ユークリッドの互除法(数学A)
  • 河渡り問題(数学A)
  • 覆面算やナンバープレイスなどのパズル(数学A)
  • 数列(数学B)
  • 統計的な推測(数学B)
  • ベクトル(数学C)
  • サイクロイド(数学C)
  • スピログラフ(数学C)
  • 最短経路の探索(数学C)

あたりは今回触れていなかったので、別の機会に書きます。この2か月ほど、ずっと数学から題材を取ってきているので、情報科をテーマにしたサイトという感じが薄くなってしまった感じがします。少し時間を空けて、書こうと思っていますので、箇条書きは私にとっては備忘録のような位置付けで申し訳ありません。

それではまた。

Posted by 春日井 優